錦帯橋アーチ発明物語 **私のエッセイ**

松塚 展門

 これは、仮想現実だったかもしれない・・・。私は、世界に誇れる、美しい錦帯橋のアーチを発明した、児玉九郎右衛門(以下、児玉)さんに会って貴重な話を聞いたことがある。今年は、錦帯橋創建から350年になるので、児玉さんが、かつて話された、錦帯橋アーチ発明物語を紹介する。
 児玉さんは、「創建時の錦帯橋は、鞍木や助木の無い極めてスマートな美しいアーチ橋でした。」と力説された。と言うのも、当時有名だった木造の猿橋や、長崎の石造アーチ橋とは全く設計法を異にする、独自の錦帯橋アーチ設計法を発明したという達成感と誇りがあったからだと思う。
 その発明について、児玉さんは次のように話された。「要点は、1.自然が造る合理的で美しいカテナリー(懸垂線)を5本使ってアーチ座標を作る。2.アーチ座標にてアーチ全部材を配置する。3.アーチ主構造体を一体化して、極めて強靭にする。というものです。この結果、約35mの錦帯橋アーチを、上下逆にして両端を支えても崩れません。一方、石のアーチを上下逆にしたら、石橋は崩れます。もちろん猿橋も崩れます。この様に、私が発明した錦帯橋アーチ設計法は、従来とは全く異質で革新的であり、しかも美しいアーチ橋を造れるのです。」
 児玉さんは、さらに錦帯橋アーチ設計法を、実験を交え分かりやすく解説された。その様子も紹介する。はじめに、錦帯橋アーチ設計図を、上下逆に壁に貼付け、細長い鎖を4本取出した。その1本目を両手でぶら下げ、図の高欄の上端に合わせて鎖の両端を止めた。2本目は、敷板と段板の角に合わせて鎖の両端を止めた。3本目は、規則的に並んだ後梁の中心に合わせて鎖の両端を止めた。4本目は、規則的に並んだ鼻梁の下端に合わせて鎖の両端を止めた。すると、並んで垂れた4本の鎖は、それぞれの部材に沿ってぴったりと合った。
 児玉さんは続けて、「鼻梁と後梁の間に桁を順に並べ、鼻梁側の上下の桁が干渉した部分のテーパ加工をし、後梁側にできる二本の桁の隙間に楔を入れ、この幾重にも重なった部材を、巻金、カスガイ、ダボ等で一体化し、極めて強靭なアーチ主構造体を作りました。その後、アーチ主構造体と、敷板・段板との間に生じる空間に、詰物や均し材として後詰と平均木を適宜配置し、高欄を付ければ出来上がりです。」と解説された。
 私は、見事な発明だと驚いた。児玉さんの心血を注いだ錦帯橋は、これで完成かと思われたが、実はこの錦帯橋を渡ってみると、かなり上下に揺れ、殿様が「九郎右衛門、揺れは止められんか?」と、言われたそうだ。児玉さんは、「約9年間懸命に研究をして、ついに補強部材の鞍木と助木を発明し、助木はアーチ座標に沿わせ、鞍木先端は、5本目の鎖に沿って配置して完成させました。つまり錦帯橋はアーチ座標の骨格となる『5重のカテナリー』で出来ているのですよ。」と優しくお話になった。これが、錦帯橋アーチ発明物語である。

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