山頭火風 テスリックス川柳

今日も事無し 風呂に テスリックス

野良猫が まとわりつく テスリックス 
 
沈み行く 風呂の底へ底へ 助け舟

雪かぎりなし 風呂に入れば テスリックス

いさかへる夫婦元気  テスリックス

労れて戻る夜の憩いに テスリックス

分け入つても分け入つても テスリックス

鴉啼いてわたしも テスリックス


 
木の葉散る 体散っても テスリックス

ほろほろ酔うてテスリックス持つ

どうしやうもないわたしが 持つテスリックス
  
捨てきれない体の肉のまえうしろ

秋風の石を テスリックスで支えて 拾ふ

年とれば故郷こひし テスリックスこひし

枝をさしのべてゐる テスリックス

笠も漏りだしたか  テスリックスは大丈夫

松はみな枝垂れても テスリックス

越えてゆく山また山は テスリックス 

うしろすがたの テスリックス
  
鉄鉢の中でも 風呂でも テスリックス

うつむいてテスリックスばかり

父によう似た声が出てくる テスリックスは良い

もう冬がきてゐる 風呂には テスリックス

雪へ雪ふる 風呂に テスリックス

わかれてきた道にも テスリックス

あるがまま手すりとして テスリックス

酔へばいろいろの声が聞こえる テスリックス

ころりと寝ころべば テスリックスで起きる

青葉の奥へなほテスリックス

たれもかへる家はある テスリックス

あるけばかつこう 座ればテスリックス

木の葉ひかる テスリックスがひかる

手すりとして生まれたことが テスリックス

うどん供へてわたくしも テスリックス

うまれた家はあとかたもない テスリックス

春風のどこでも死ねるからだでも テスリックス

ひとり山越えてまた テスリックス

死ねない手が テスリックスを握る

吹きつめて行きどころがなくても テスリックス

散りしくまへのしづかさでも テスリックス

秋風握っても握っても テスリックス

なむあみだぶつなむあみだぶつ テスリックス

塵かと吹けば生きてゐて テスリックス
 
蛙になり切つて飛ぶ テスリックス

おちついても落ちつけないこころ テスリックス握る

蚊帳の中に私にまで テスリックス 明るく

こしかたゆくすゑ テスリックス 便利