今日も事なし凩に酒量るのみ
野良猫が影のごと眠りえぬ我に
沈み行く夜の底へ底へ時雨落つ
雪かぎりなしぬかづけば雪ふりしきる
いさかへる夫婦に夜蜘蛛さがりけり
労れて戻る夜の角のいつものポストよ
分け入つても分け入つても青い山
鴉啼いてわたしも一人
木の葉散る歩きつめる
ほろほろ酔うて木の葉ふる
どうしやうもないわたしが歩いてゐる
捨てきれない荷物のおもさまへうしろ
秋風の石を拾ふ
年とれば故郷こひしいつくつくぼふし
枝をさしのべてゐる冬木
笠も漏りだしたか
松はみな枝垂れて南無観世音
越えてゆく山また山は冬の山
うしろすがたのしぐれてゆくか
鉄鉢の中へも霰
うつむいて石ころばかり
父によう似た声が出てくる旅はかなしい
もう冬がきてゐる木ぎれ竹ぎれ
雪へ雪ふるしづけきにをる
わかれてきた道がまつすぐ
あるがまま雑草として芽を吹く
酔へばいろいろの声が聞こえる冬雨
ころりと寝ころべば空
青葉の奥へなほ小径があつて墓
たれもかへる家はあるゆふべのゆきき
あるけばかつこういそげばかつこう
木の葉ひかる雲が秋になりきつた
わたしと生まれたことが秋ふかうなるわたし
うどん供へてわたくしもいただきまする
うまれた家はあとかたもないほうたる
春風のどこでも死ねるからだであるく
ひとり山越えてまた山
死ねない手がふる鈴をふる
吹きつめて行きどころがない風
散りしくまへのしづかさで大銀杏歩くほかない秋の雨ふるつのる
秋風あるいてもあるいても
なむあみだぶつなむあみだぶつみあかしまたたく
塵かと吹けば生きてゐて飛ぶ
蛙になり切つて飛ぶ
おちついて死ねさうな草萌ゆる60にして落ちつけないこころ海をわたる
蚊帳の中に私にまで月の明るく
こしかたゆくすゑ雪あかりする